un journal

「未知ある  陰ひとつない道歩く曇り空 君のさびしさはどんなさびしさ  く」

もう本を読むのはやめた――短歌モドキ33

半袖を着て出たことを悔やみつつきみまでつづく星月夜とぶ  ほ 詩好きよ

もう本を読むのはやめた ぼくたちは止まった時間のなかで生きる  よ 無

ぬばたまの夜の墓地をさまよえば浮動する九鬼周造之墓  ふ 銅

ねるまえの自動書記のセッションが成層圏をつきぬけてゆく  性 そう

恋人も傘も持たずに外に出ようもうじき雨は止むのだから  もう 時期

ものすごいことをしようよ 婚約者とか友達の名前を借りて  な 舞え

きみは昔魔女だったんだ だったんだ 八回記憶をたどってみて  き 贈

成長とかいうのは避けて生きようよ 生まれ変わりのときに備えて  そ 萎え

たくさんの書物を載せてふらふらと走る台車のようなぼくら  ふ 裸婦ら

海のない街に住めば生まれてからいちども海を見てないような  す 女

何回か一緒に映画見たっぽい街を歩いてふっと消えたい  なんか 胃

たくさんと思った茶葉が五リットル分だけだったようなひかりの  血 やば

朝ぼらけ きょうやすんでいいよと言われた気がして宝石の曇  ほー 咳

きょうはやすんでもいいよ――詩モドキ4

きょうはやすんでもいいよ
とだれかに言われて
目が覚めた朝の床の上に
差し込むひかりや宝石の曇り
完璧な配置の家具があり
ここで死んだと思ったから
やっぱりきょうはやすもうと
八回記憶をたどってみると
生きていて
飛行機かなにかがとぶ音がして
想像力が雲を呼び海を呼び
まわりに空港を構成し
わたしはそこで
寝泊まりしてることにして
生きていることにして立ちあがり
窓を横切る渡り鳥をみながら
紅茶をつくろうとして
たくさんと思った茶葉が
不足していたからもう一度
どこかに行こうと
なにかの音を待ったけれど
何も聞こえなくて
誰もむかえに来なかったから
シャワールームのドアを開けると
白い壁に囲まれて
色彩を持つものはなにもない
宇宙港から星の海へと飛びたつ
宇宙船の中にいて
わたしの身体を分解して
シャワールームは飛んでゆき
双子地球に降りたって
わたしを再び構成する
生きたくないのに
 

こんな日はあの鰯雲ぜんぶ撃ち落そうこのボトルロケットで  違和 し――詩モドキ3

 
違和
鳥の声が時間を止めた
しずけさの中でぼくは
ふかく息を吸ってから
本を開いたゆびさきが
かすり傷を負って
ページがめくれない
てのひらに息をふきかける
こんな日はあの鰯雲
ぜんぶに見下されていて
川べりにうかぶ
さびしさが嫉妬するようで
傷口からあふれ出る曼珠沙華
折り取って宙になげつければ
口ずさんだ詩句と一緒に
流れて消えてゆきました
そのままずっとすることもなく
芒のような眠たさで
流れてゆく日々や人々を
見ているとふと
通りかかった少年がそーだ
をぼくに差し出して
鰯雲の秋のわらい声
そんなのはぜんぶ撃ち落そう
このボトルロケットで
とは言わずに空に消え去って
気付いたら血は枯れて
そーだの味だけが
世界に充満しています
 

本たちの街――詩モドキ2

 
あにの積み上げた本の塔がくずれ
ひとつずつ拾い上げようと
手を伸ばしたその先が
街になっていて気がつけば
なかを歩きまわっていた
歩くたびに失われてゆく
青空と街路の前世の記憶
詩の一節や
ニュアンスのきらめきを
新しみつつさびしみつつ
いつも周縁を歩いていて
けっして中心に近づけない
その崩壊した塔はわたしにまで
歪んだ鐘を響かせるのでしょうか
(なにもできないわたしでも
 あの塔の解体ならできる)
わたしはただ街のはずれの墓地にゆき
あにの名を呼びたいとおもう
そして,そのまま,いつまでも
眠っていたいとおもうから
自分の存在をはっきりさせるために急いで
くずれ残った塔もくずして
瓦礫のひとつをつかみとって
かばんに詰めて外に出て
つぎはひとには生まれない
さようなら本たちの街
さようならあによわたしは
しあわせです
 
 

霧にしずむ――詩モドキ

 
まばゆい霧,の朝は
そのまま海岸,になった
窓のそとからやってくる波の
おと,がへやを水びたしにする
ひるがえるカーテンは
うみかぜのしるし
霧の中の無数のひとかげ
貝殻のかがやき,海のむこう側の島のかげ
これ,が,わたし,の求めていたもの
「そうかな」
「そうだよ」
波のおとに意識は一瞬のうち
明晰になりふたたび霧にしずみ
車輪のおとは,波のおと
これがわたしの求めていたもの
かけぶとんのうえの海風をあび
そだってゆくねむたさに
てのひらをのばせばこの幻想は終わる
だから,じゃあ,おやすみ
海底で,お会いしましょう
 

水遊び――短歌モドキ32

さびしさは故郷のむこうにあるカフェのキャラメルラテの泡におぼれて  あ 環

自殺ならその気になればいつだって 夏の遮断機くぐり抜ければ  瀉 だん

曇天にモネの睡蓮傘ふわり幼少時代のお城よこぎる  どん 転

きらきらの十円玉を守るため捨て駒になる五円ふたりは  呪 うえん

九時頃の商店街を歩き中 もうひとりのわたしを見たの  あ ルキ

とげとげのマジックテープにとらわれてぐしゃぐしゃになった栞紐忌  まじ 憑く

川下に鴨ゾーン,烏ゾーン,橋をくぐれば子供たちかな  ぞ 穏

墓洗ふそこかしこにて蛙跳ね わたし来世は両棲類かも  か 獲る

川縁に浮かぶさびしさ曼珠沙華 水遊びする子らを見上げる  う 歌舞

秋の声か きみのいない曇り空にもどことなく漂うものは  く 洩
 

野獣派――短歌モドキ31

私たち
エレベーターを独占し
見下ろす世界からは
耳鳴り  
み       身形
 
 
おい
現代詩
置いていないの

なんでだよ
あの
九階の大きな
書店  
 
 
食べてから
展覧いこう空腹で
絵が食べ物
に見えそうだから  
くー    拭く
 
 
高そうなケーキ
みたいな柄の絵
を次から次へ
消費していく
け     易
 
 
「ニースってイタリアだよね」
「いやフランス」
と絵を指して言い合う夫婦
腑           うふ
 
 
野獣派のブックマーカーひけらかし
洋書読んでる都会
まばゆい
や             自由