un journal

「未知ある  陰ひとつない道歩く曇り空 君のさびしさはどんなさびしさ  く」

中川の宿を調べれば――短歌モドキ21

中川の宿を調べればよく歩くまぶしい通りのすぐ傍で

エアコンの効いた部屋のさびしさに堪らず開けた窓より入る蚊

雨の日の庭を外から眺めつつ隠しているものを考えて

かなたより届く花火の音だけが涼しい部屋の中に広がり

雨あがりの夕暮れ時の静けさは通りに出るまで持続して

通りすがりの車がひき殺すのは 烏の声 ひぐらしの声
 
 
 

海岸に打ち捨てられたまぶしさや――短歌モドキ20

海岸に打ち捨てられたまぶしさや眠気をさそう夏霧の朝

身の丈の半分もない片影に下半身を埋め歩いて

携帯と時計を捨てて街に出て河川敷をずっと歩けば

文字盤の八時三十分はもうすっかり夏の果な気がする

川沿いに色とりどりの日傘すぎ詩集の目次を詩だと思う
 
 
 

海岸のように霞む空見て待っていた――短歌モドキ19

海岸のように霞む空見て待っていたおとぎの国の台風

大切にしまっておいた欲望の荷重に堪らず抜けた引出し

曼荼羅のような光に照らされた石段のぼる真夏日の夜

まぶしくも夏の夜めく夏の夜 音ゲーマーの君のゆびさき

墓場まで持ってくほどでもないけれどせめてもと詩を書き写したり
 
 
 

台風がくるまえなのに夕空は――短歌モドキ18

起きても起きても雨ばかりで降っていなかったと唱えてもだめだ

なんということだカフェイン中毒の倦怠に詩が効かないとは

雨の日のカーテンを閉めキジバトやせせらぎの音で部屋を満たして

川沿いを北へ北へと進みゆき片影に沿って引き返したり

台風がくるまえなのに夕空は秋のようで外歩きたい
 
 
 
#はじめのは『モロイ』の「真夜中だ.雨が窓ガラスを打っている.真夜中ではなかった.雨は降っていなかった」を踏まえて.

さびしさを求め歩いた賜物――短歌モドキ17

さびしみを理解できないひとという概念自体がすでにさびしい

二日後に忘れてしまうと知りながらさびしさ求め詩集めくれり

かがやきが消えるのこわくてたやすくは読み返せずに書架にもどず詩

しあわせを求めて買ったりんごジュースしあわせ濃くて水で割った

さびしさを求め歩いた賜物はおつりを渡す包むような手

歩くため雨が止むのを待てば夜いつまでふて寝すればすむのか


さびしみのなかに幸せを求めよ――短歌モドキ16

何日も書肆に通い読みあきた詩を御守りとしてレジに運ぶ

たぶんこれから一週間くらい毎朝よむことになるのだろう

大学生のうちに読みたいと書かれならされてしまう欲望よ

図書館に一度よんだ詩をさがしに行くときのこの距離感がすき

さびしみのなかに幸せを求めよこれがおまえへの遺言だと



#最後のはカラマーゾフの長老の台詞「『悲しみのなかに幸せを求めよ』.これがおまえへの遺言だ」のもじり.「まぶさびのなかに」にしようとも思ったけどそれはさすがに.

世界の終わりと隣り合わせでいるという贅沢――短歌モドキ15

ただ一緒に歩いてるだけなのにデートだなんて言わないでほしい

そびえたつ書物の塔をながめつつ愛の鍵求め図書館デート

世界の終わりと隣り合わせでいるという贅沢抱きしめ午睡

ビュトールの心変わりのきみを皆わたしたちの名に書き換えたい

海岸に沿って走る陽みるために海をさがしに川岸までゆく
 
 
 
#はじめの2つは恋うたというテーマを与えられたなら自分には何が詠めるか試しにやってみたもの